阪神優勝おめでとう小説 (仮題)

 

by wwr

 
 
街は異様な空気に包まれていた。
いや異様な空気を生み出していた。
これまで通り過ぎてきた幾つもの街のように、妖怪の襲撃に怯えているという風ではない。むしろ平和で活気に満ちている。
通りには溢れんばかりの商品を並べた店が立ち並び、そこを歩く人々は皆、活き活きとした表情をしている。少なくともここには、桃源郷を覆う『異変』の影響はないようだ。
ただ何といったら良いのだろうか。長年たわめられていた力が、ついに爆発する瞬間を待ちわびているような、それを恐れているような。幾度も期待を裏切られ、もう信じまいと思いながらも、心のどこかで抱いていた願いが、突然叶えられてしまうことに気づいたような。
街中は人通りが多い為、三蔵達一行はジープから降り、今夜の宿を探して歩き出した。通りには飲食店が多く、今にも飛び出していきそうな悟空を抑えているのは一苦労だった。
「うわっ、すげぇ」
悟空が丸い目を向けた方角には、巨大なカニが建物の壁で八本の足を蠢かせていた。
「うまそ~~」
「ありゃ模型だ。食うなよ」
指をくわえる悟空を引きずってまた歩きだせば、街のあちこちでは不思議な物達が愛想を振り撒いていた。紅白の縞の服を着た人形が、太鼓を叩きながら眼鏡をかけた顔を左右にゆらす。ビルの壁ではネオンで描かれたランナーが、両手を挙げて誇らしげにゴールのポーズを取っている。
人も街も、キッチュで馬鹿馬鹿しく逞しい。
「いーねー。俺、こーゆーの大好き」
「パワーが漲っている、って感じですね」
だが街の中で一番目に付くのは、黄色と黒で鮮やかに描かれた虎のマークだった。立ち並ぶ店の軒先には、ずらりとこの虎のマークのポスターが貼られている。
よく見ると道を歩く人々の持ち物にも、ワッペンや携帯のストラップ、帽子やTシャツの背中と、この虎のマークが付いている。
「おい八戒。あの虎なんだか知ってるか? えーと、ハ・ン・シ・ン?」
八戒は首を傾げた。
「さあ?何かの宗教団体で、今日はお祭りでもあるのかも知れませんね」
「祭?屋台とか出るの?そーいやさっきから、上手そうな匂いがしてるけど」
あれこれ憶測と期待を巡らせる三人とは対照的に、三蔵の不機嫌度は募る一方だった。地面を蹴りつけるように、独りで先を歩いていた三蔵のブーツが、街の一角でぴたりと止まる。次の瞬間、渾身の力を込めた蹴りが繰り出された。
被害にあったのはなんの罪もない煙草の自販機だった。
「てめぇも煙草の自販機なら、マルボロぐらい置いときやがれっ!」
言いがかりである。
三蔵が二日前から煙草を切らしていたことも、その三蔵の目の前で悟浄がこれ見よがしにハイライトを吸っていたことも、この自販機の責任ではない。ましてこの街の自販機のどれにもマルボロが入っていなかったことにも、何の責任もあるはずがない。
「おーぉニコチン切れで荒れてるねぇ、三蔵サマは」
懐から取り出された銃が、問答無用に悟浄の眉間に狙いをつける。
「なぁ三蔵、あそこにあるの煙草屋じゃないか?」
悟空の言葉に振り向くと、三蔵は「TABACCO」の看板目掛けてずかずかと歩き出した。
そこは小さな煙草屋だった。自販機はなく、かなりの数の煙草が並べられたガラスの出窓の向こうに、老婆がちんまりと店番をしている。
「マルボロ、赤」
老婆はぴくりともしない。耳が遠いのかと三蔵はさらに声を張り上げる。
「おい、マルボロ赤だ」
老婆は動かない。ただ食い入るように小さなテレビの画面を見つめている。
「ちっ」
三蔵のこめかみに青筋が浮いた。
「おばちゃーん、煙草ちょーだい」
悟浄が脇から身を乗り出して呼びかける。
「なんだい、喧しいねぇ」
やっとテレビから顔をあげた老婆の視線は、三蔵に釘付けになった。白い法衣をまとった年若い僧侶。その髪は日の光を受けて金糸よりも輝き、あたかも後光が射すかのよう。
皺に埋もれた老婆の口から、感極まった声が漏れる。
「ば…ばぁ…」
―婆ァはてめぇだ!-
言いかけた三蔵の罵声を制して、老婆が絶叫した。
「バースやぁぁぁぁぁっ!」
「バース?なんだそりゃ」
三蔵一行には意味不明な言葉。しかしそれは周囲の人間に絶大な効果をもたらした。
「なんやて、バースやて!?」
「ほんまかっ」
辺りの路地から近所の家から、街の人々が砂糖に集まる蟻のように押し寄せる。あっと言う間に四人組は取り囲まれて、身動きが取れなくなった。
「ほんまや、バースや!」
訳が分からず逃げようとしても、押し寄せる人の群れにつぶされないようにするのが精一杯だ。
「おい猿っ、どこ行った」
「悟浄、手を離しちゃいけませんよっ」
髪は引っ張られる、服は破かれる。肩、腹、背中を叩かれまくる。
「今年は頼むでぇ」
「よっしゃ、これで優勝確実やぁっ!」
浮かれる群集の頭上に銃声が響いた。続いて訪れた静けさの中に、三蔵の声が低く問う。
「てめぇら、何のつもりだ」
静けさは一瞬のものだった。
「チャカ撃ったで」
「いやぁ、さすがはバースや」
群集の興奮は更に高まり、熱狂となって渦巻く。
「神様、仏様、バース様」
「神様、仏様、バース様」
「神様、仏様、バース様」
人々が唱える言葉。それは祈りか呪文か。
ようやく三蔵一行が抜け出すことができたのは、深夜になってからだった。
「つまりアレだ…阪神タイガースが優勝しそうなんだろ」
「それが18年ぶりだというなら、あの方たちの興奮も分かりますが…」
ようやく落ち着いた宿の一室で、一行は頭を抱えていた。昼間に聞いた言葉の切れ端を繋ぎ合わせて推理した結果、この街と自分達が置かれている状況はなんとか理解できた。そしてなぜ三蔵が『バース』なのかも。
金髪の男性は阪神を優勝に導き、それを『バース』と呼ぶ。それはこの街では、もはや信仰の粋に達しているようである。
「三蔵、髪切りませんか」
「つーかさ、剃れば?もともと坊主なんだしよ」
アフリカ象ですら一瞬で殺せそうな視線が三蔵の答えだった。
「俺が知るか、朝には出発する」
「無理みたいだよ、三蔵」
悟空がカーテンの隙間から、そっと窓の外を指さす。宿を囲む道路では、数が減った
とはいえまだかなりの人数がうろついている。風に乗って聞こえるのは六甲おろし。
「馬鹿共が」
妖怪相手なら力ずくで突破できるが、相手は人間の一般市民。手荒な真似はできないし、下手をすれば街ごとの暴動になりそうだ。思わせるだけのパワーがこの街にはある。
「こうなったら決着が着くまでここにいるしかありませんね」
阪神の負けが決まったら熱も醒めるだろうし、優勝したらさっさと出発すればいい。
そう決めて一行はこの街に滞在することにした。


街の居心地は悪くなかった。「三蔵法師御一行様」という肩書きに関係なく、これだけ歓迎されたことは無い。
悟空が通りを歩けば「坊主、これ食ってけや」と、タコ焼き、焼きソバ、お好み焼きが次々と降ってくる。
悟浄が橋を渡れば「なぁなぁ、茶ぁでも行かへん」と逆ナンの嵐。
八戒が市場に出かければ「ええから、持っていき」とお持ち帰りの山。
一人、三蔵だけが不幸だった。今日も通りすがりの親子連れの
「今度のバースはえらい別嬪さんやなぁ」
「お母ちゃん、バースてなに?」
「バースいうのはなぁ、ああいう金色の髪した人のことで、来ると阪神が優勝するんやで」
「ほならボクも大きくなったら、髪の毛ぇ金色にする」
「ええ子やなぁ」
という会話に、己のアイデンティティが崩壊しそうになったところだ。疲れ果てて宿に戻った三蔵を迎えるのは、日に日に増えていく阪神グッズと、洗脳されていく下僕が三人。
「……それは何だ」
「メガホンと、バットと、風船と。あ、こっちのハッピは三蔵のだから」
楽しげに言う悟空は、すでにハッピと鉢巻を装備済みだ。
「下らんモン買ってるんじゃねえ、バカ猿」
「貰ったんだよ」
開いた口がふさがらない三蔵の横で、悟浄がうんうんと頷きながらスポーツ新聞を読んでいる。
「やっぱ星野は漢だぜ。リーダーってのは、こうでなくちゃよ」
一瞬発砲しかけた三蔵だが、嫌味が言えるほど悟浄の頭はよくないことを思い出してやめた。
「おい八戒…」
コーヒーと言いかけて三蔵の動きが止まる。
「成る程、明日の相手は広島ですか。とするとスタメンは…」
対戦成績や各種データに囲まれて、なにやら計算している八戒の後姿は、迂闊に声など掛けられないほどのオーラを発している。
三蔵は黙ってコーヒーを淹れ、シャワーを浴びて寝た。勝っても負けてもいい。一日も早くこの悪夢が終わることを祈って。


「どうやら今夜の試合で決まりそうですよ」
昼食の席で八戒が宣言した。
「よしっ。猿、道頓堀行くぞ」
「悟浄、飛び込む気?」
「ったりめーだろが。せっかく川の掃除もしてくれてるってんだから、飛び込まなきゃ男じゃねーぞ」
「やっぱそうだよなー」
悟空と悟浄は昼食をかき込むと、ハッピと鉢巻メガホン装備で出かけていった。
「僕は阪神優勝セールの下調べに行ってきますが。三蔵はどうします」
「部屋で寝る」
「そうですね。今夜は部屋から出ないほうがいいですよ、危ないですから」
まさに街は今、戒厳令下のようだった。店の看板は鎖で固定されるか、既に避難を終えている。電柱には有刺鉄線が巻かれ、ダイブのメッカ道頓堀には1m置きに「飛び込むな」の看板が立てられた。そして優勝の夜には、鎮圧の為に自衛隊が派遣されるという噂が、まことしやかに流れている。
そんな事情には一切無関心で、三蔵は一人、部屋で煙草をくゆらせていた。
テレビはどのチャンネルも同じ番組なので、スイッチを切ってある。窓を閉めても聞こえてくる応援歌が、三蔵に続けて煙草を取らせる。
―何が面白い―
他人の勝ち負けがそんなに面白いか。応援しているチームが勝てば、自分も勝ったような気でもするのか。
―うぜえんだよ―
勝ちが欲しけりゃ、てめぇで掴め。他人に寄っかかってんじゃねえ。
「バースの兄ちゃん、おるかー?」
いきなり呼ばれて、三蔵の口から煙草が落ちた。『三蔵様』と肩書きでしか見られないのも不愉快だが、他人の名前で親しまれるのはさらにムカつく。
「バースなんざいねぇな」
無視しているとドアを叩く音は激しさを増し、今にも蹴破られそうだ。
「なんだ喧しい」
三蔵が渋々とドアを開けると、そこには全身阪神グッズをまとった集団がいた。不穏な気配を感じた三蔵がドアを閉めるよりも素早く、一団は三蔵を取り囲む。
「なんや一人かいな」
「ワシらと一緒にテレビ見よ」
「知るか、出て行け!」
怒鳴る三蔵にもびくともしない。
「まぁまぁ、そう言わんと」
四方を取り囲まれ両肩を掴まれて、三蔵は拉致られていった。
拉致の先は宴会の席だった。テーブルを囲む街の住民は、すでにかなり出来上がっている。三蔵のその上座に座らされた。
「おぉ、よう来てくれたなぁ。まぁ呑み」
握らされたグラスにビールが注がれ、乾杯に巻き込まれる。
「阪神の優勝を祈ってぇ」
「乾ぱーい」
周りに合わせようという気は全く無く、三蔵は無言でビールを飲み干した。呑まずにやっていられるかという心境を、こめかみに浮かんだ青筋が雄弁に語っている。
「えぇ呑みっぷりやなぁ、兄ちゃん」
隣に座った阪神キャップの男が、空になった三蔵のコップにビールを注ぐ。それをまた無言で三蔵は飲み干した。
店に置かれたテレビの画面が、野球中継を映し始める。選手の動きの一つ一つに歓声と罵声の嵐が沸き起こる。
「なにやっとんじゃーっ!」
「いてまえ井川」
阪神キャップの男と三蔵の周りだけが静かだった。三蔵は黙々と酒を呑み、男は空いたグラスに酒を注ぐ。やがて男がぽつりと言った。
「ワテらのこと阿呆やと思とるやろ」
「ああ」
「綺麗な顔して、きっついなぁ」
男は笑ってビールをあおった。
「まぁ阿呆でなきゃ17年負け続けのチームの応援なんか、しとれんわな」
テレビの画面で試合は進み、宴会はさらに盛り上がり続ける。
「けどな、踊るアホウに見るアホウ言うやろ。あんたにはおらんのかいな、とことん付き合って踊ってくれる阿呆仲間が」
「阿呆に知り合いは…」
居ないと言えない自分に気がついて、三蔵は一気にグラスを空けた。店の出入り口が騒がしい。どうやらまた新たな客が来たようだ。
「おぉ来たか、こっちやこっち」
新しい客は両腕を抱きかかえられるようにして、三蔵の隣に座った。やけに無口で料理にも酒にも手を出す気配が無い。こいつも無理矢理連れてこられたのか、と三蔵は半ば酔った目を隣に向けた。
「………」
そこには阪神のハッピを着込んだ食い倒れ人形が、きょとんと三蔵を見返していた。


結局その日には決着は着かなかった。その次の日にも。寸止めを喰らったエネルギーは街中に吹き荒れ、もはや爆発寸前。持て余したエネルギーのはけ口を求め、人々は道頓堀に繰り出す。
原色のネオンが輝く夜の街。散歩中のおっさんと犬がお揃いの虎柄のハッピを着込み、ラジオの声に耳を済ませている。街角に置かれたモニターを囲む集団は、肩を組んで六甲颪をがなり続ける。
「馬鹿しかいねぇのか、この街には」
無理矢理悟浄と悟空に連れ出された三蔵は、不機嫌の絶頂にいた。
「なーなー、三蔵もこれ着ようぜ」
「誰が着るか」
虎のハッピを差し出す悟空に、ハリセンの一撃を見舞う。すると辺りから拍手が沸いた。
「あんたハリセン上手いなぁ。ひょっとしてプロかいな」
ハリセンにプロがいるのか?
不審げな三蔵の目の前に、名刺が差し出される。
「いつでも来てや」
名刺の肩書きは『吉●興業』
「俺はお笑い芸人じゃねぇっ!」
と、不意に辺りの空気が静まり返った。息すらひそめて人々が見つめるモニターから、アナウンサーの絶叫が響く。
「やりました、阪神タイガース18年ぶりの優勝ですっ!」
その時、街が揺れた。地の底から湧きあがるようなどよめきの中、雄叫びが木霊する。
「やったーーっ、優勝やーーーっ!」
「やったでーーっ!」
「星野ぉーーーっ!」
街角で配られた号外は奪い合いになり、たちまち底をついた。ミニスカートの男たちが肩を抱き合って号泣し、虎柄ビキニに虎耳の女たちがビールを浴びせあう。大笑いする若者達。そっと嬉し涙を拭う年配者。
ひっかけ橋からは次々に人が宙を舞い、飛び散る水しぶきをネオンが紅緑に染める。
「はい飛び込まないで下さい、危険だから飛び込まないで」
警官の制止の声など、なんその。テレビカメラを載せたヘリが街の上空を旋回し、その爆音が更に興奮を煽り立てる。
「行くぜっ!」
裸の上半身に虎柄の風呂敷をマントのように靡かせた悟浄が跳んだ。弾ける水しぶきに歓声が上がる。
「俺もっ!」
欄干を飛び越えて悟空がダイブする。綺麗に三回転して着水。川の中で悟浄と並んでガッツポーズ。
「三蔵も来いよーっ」
「やったモン勝ちだぜぇ」
手を振る二人を見る三蔵の視線は冷たい。
「勝手にやってろ」
宿に戻ろうと踵を返す。しかしそれを見逃す住民達ではなかった。
「なんや、飛び込まへんの?」
「誰がやるか」
「そうですね。法衣が汚れちゃいますしね」
さりげない親切を装った八戒の一言が、住民を動かす。
「ほならコレ貸したるわ」
四方から手が伸び三蔵の白い法衣をむしり取った。そして代わりに着せられたのは虎柄の上下。ご丁寧に下はTバックだ。
「てめェら…」
この姿では街中を歩けない。三蔵は法衣を取り戻そうとしたが、既に人ごみに紛れて行方知れず。
「ざけんじゃねぇぞ」
虎の上下で睨んでも、今ひとつ迫力に欠ける。
「まだ足りへんの。ほなこれも付けたるわ」
一人の若い女性が、自分が付けていた虎耳を外すと、三蔵に差し出した。
「いるかっ!」
「遠慮せんとき、ほらァ」
女性は虎耳をつけてやろうというのか、親切そうに三蔵に歩み寄ってくる。
「よ、寄るんじゃねぇ」
じりじりと追い詰められていく三蔵の背中が、橋の欄干にぶつかって止まる。
「よぉ似合うで」
虎耳か、ダイブか。前門の虎耳、後門の道頓堀。
舞散る紙吹雪、飛び交う風船。抱き合って笑う人々の髪から滴るビールの泡。堀の中で手を振る悟浄と悟空。カメラを構えた八戒。
「馬鹿野郎!!!」
怒鳴り声につづいて盛大な水しぶきが道頓堀に上がった。辺りを埋め尽くす群集からは、万歳三唱が途切れることなく沸き起こる。
濁った水の底にはカーネル・ダースが佇んでいた。己がかけた呪いに自縛された者が、ようやく解放の時を迎えたような、どこか穏やかな笑みを浮かべて。


やがて狂乱の夜は明け、旅立ちの朝が来る。
優勝セールの戦利品をどっさり積んだジープに、一行は乗り込んだ。
「これ途中で食べてや」
悟空に包みは温かく、美味そうな匂いが立ち昇っている。
「ウチのこと、忘れんといてな」
「忘れるワケねぇだろ」
ジープのドアを挟んだキスを交わして、悟浄はショートカットの女の子に別れを告げた。
「行くぞ」
三蔵に促されて八戒はハンドルを握った。
「それじゃあ、お世話になりました」
「気ぃつけてな。また来や」
「二度と来るか、さっさと出せ」
八戒は苦笑しながらアクセルを踏んだ。ジープは快調に走り出し、街は背後に遠ざかっていく。
「面白かったなぁ~」
「サイコーな」
名残惜しげな後部座席組をひと睨みすると、三蔵は地図を広げた。今出てきた街を探し出すと、マジックで大きく丸をつける。八戒が横顔でくすりと笑った。
「また来る時の為に、ですか?」
「間違っても来ねぇように、だ」


己の行く手を阻むもの全てを撃ち倒し、妖怪達から悪の権化と恐れられる玄奘三蔵。
その三蔵をして恐怖たらしめた街があった。
その街の名を大阪という。