色の名前

 

by wwr

 
 
「ゼルガディスさーんっ」
呼ばれて白い人影は立ち止まった。
振り向いた拍子に、夜風がそのフードをふわりと持ち上げて背中へ落とす。月明かりに不思議な姿が浮かび上がった。
白銀の髪が、おぼろな月の光をはね返すように冷たく光る。
硬質を予想させる肌は、わずかに黒を含んだロシアン・ブルー。
全ての色を拒むかのように、全身を白で装った彼の瞳が、駆け寄ってくる少女を見守る。
瞳の色はホーリー・グリーン。
長い冬にもその葉を散らさず、最も寒さが厳しい時期に、鮮やかな紅い実をつける常緑樹の緑色。
「どうした、アメリア」
「もっとゆっくりいきましょう、せっかくこんなに月が綺麗なんですから」
「月、か」
そう言えばそんなものもあったのか、というようにゼルガディスは夜空を仰いだ。少ししてからアメリアに視線を移す。
硬かった目元が、ほんの少し柔らかくなっていることは自分では気づかない。
「そうだな・・・」
「そうですよ」
ゼルガディスはゆっくりとした歩調で歩き始めた。
アメリアも並んで歩き出す。
二人ならんで歩けるように。
大事なものを見失わないように。
ゆっくりと。