遊戯げえむこそ なほをかしきものなれ

 

by 眠林

 
JOURNEY ~opening~
  
 

「……徒然なるままに 日ぐらし――」
呆れ気味の近侍の声がする。いきなりお小言じゃないだけ、今日の歌仙の機嫌はまだ良いようだ。
私は画面から目を逸らさずに、食い気味に言葉をかぶせた。

「――データをロードし、画面に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく遊びつくせば――」

会話をするときは相手の顔を見たまえ……とか雷が落ちるかと思ったが、彼は洗濯物を抱え直して大きくため息をつくだけに留まった。ほっ。
安心した直後に、雷とまでは行かなくとも、若干不機嫌そうな声が私の台詞を繋いできた。

「――あやしうこそものぐるほしけれ。……って、きみねぇ」
「え~。今日の分の任務はもう終わらせたわよぉ」
「それは判っているよ。それでも暇さえあれば君はげえむとやらにかまけているじゃないか。そんなに面白い物なのかな」
「面白いわよぉぉ」

びしっっと、私は近侍に向かって人差し指を突き付けた。

「そこら辺の本と同じくらい面白いっっ」
「“本より”では無いのだね」
「私は本も好きだからね。知ってるでしょ?」
「ああ。そうだね」

私が自分の時代から、本丸に持ち込んだ大量の書籍は、歌仙を始めとする男士達のお眼鏡にもかなったようだった。
歌仙が夜を徹して、指輪物語とその関連書籍を読んでいたのを、私は知っている。

「さてさて。あれだけの書物と同じくらい面白い娯楽と言うのは、僕としても気になるところではあるけどね。どこから当たって行けば良いのかな?」
「そうねぇ」

粟田口部屋に差し入れたマリカーみたいなのは、合わないだろうなぁ。明石が異様に強いぷよぷよ筆頭パズルゲーも、……ちょっと違う気がする。

「貴方が好きそうなのは……ちょっとマイナーだけど、あれかなぁ」
「まいなーとは?」
「え~と、『通好み』って感じ」
「ほほう」

彼の声色に興味の色が乗ってくるのを聞いて、私はセーブポイントに飛び込んで自分のプレイを終了した。

「えっとね、これこれ」

新規で立ち上げたゲームは、黄色い空と大地の砂漠の画面。
×印が、「新しい旅路へ」。
私が「はい」とコントローラーを渡すと、歌仙は目を白黒させながら言った。

「どどどどうやって使うのかな?」
「両手でこう握って、基本的には親指でこう動かす。左手が移動。右手のボタンが呼びかけとジャンプ」
「それだけかい?」
「それだけよ」
「……粟田口の部屋では皆何やらもっと色々押したり引いたりしていたが?」

訝し気な顔をする歌仙に、私は笑いをかみ殺しながら、「このゲームではそれだけよ」と、重ねて言った。
彼がぎこちなく操作する赤ビトが砂丘を上がり切ると、黄砂の空の向こう、彼方の山を見上げる視界にタイトルが浮かび上がる。「……ほう」と息をもらす声が聞こえ、私は内心でガッツポーズをした。

「で、これからどこへ行けば良いのかな?」
「何処へでも。お好きに」
「えっ」

驚いてこちらを向いた歌仙に、私はにっこりと笑いかけた。

「どうぞ、行きたいところへ行って、やりたい事をやって頂戴。このゲームの真骨頂はそこにあるの」
「……?」

まだ腑に落ちていない顔をしつつも、歌仙は、遠くに見える小さな茶色い岩に向かって歩き始めた。

さてさて、一首詠みたくなるような絶景を、彼はこの世界の何処に見い出してくれるだろうか。――