友の旅立ち 見送る君は

 

by 眠林

 
 
「で、安定との喧嘩の原因は何なの?」

審神者の質問に、加州清光は頬を膨らませてぷいと横を向き、言った。

「…………別に」
「別にで済むわけないでしょう~~??あんな派手な取っ組み合いして、陸奥守が止めてくれたから良かったようなものの、あんたたちの体だって叩けば痛いし、傷もつくのよ!」
「じゃあその手入れの分の資源は俺が遠征で稼いできてやるよ。それでいーじゃん!」
「そういう問題じゃなあぁぁぁい!!」
「じゃあ、どういう問題だよっっ」
「本丸全体の士気にも関わるのよ!。安定も理由を言わないし、みんな心配してるって言うのに」
「みんなみんなって……あんたは俺よりも本丸とみんなの方が大事なんだ……」
「…………ややこしぃな~~。どーせーちゅーねん」

再び俯いて黙りこくってしまった初期刀を眺めて、審神者はため息をついた。

石切丸の修業を見送った頃から、安定が何か言いたげだったことは気付いていた。
引っかかるものがありながら、多忙な日々にかまけていたらこの有様である。まず先に、安定の方の話を聞いておけば良かったかなぁ……と思いを巡らしていると、また目の前でぼそりと呟く声が聞こえた。

「………………られたんだ。」
「え?」
「……安定に怒られたんだ。あの言い方は無いだろって。あんたが……悲しそうな顔してたって」
「あ~~、やっぱりね。安定に心配かけちゃってたか……。悪いことしたなぁ」
「何だよっ。俺の心配はしてくれないのかよ!」
「うるさいわ!そもそも修行見送りに何よあの言い草は。石切丸に失礼でしょう。ぶん殴ってやろうかと思ったわ」
「俺だけは愛してやるのどこがいけないんだよ~っっ。本当の事だろぉ」
「それを言う為に、他の男士を引き合いに出すのが気に入らないのっ。それとも何?清光は、私が自分の本丸の刀に嫌われて出て行かれるような、不甲斐ない審神者だって思ってるの??」
「……それは……っっ」

返答できず、涙目になった加州は言葉をのみ込んだ。
お互いの荒い息が、睨みあった1人と1振りの間を行き来する。
暫しの沈黙の後、先に口を開いたのは審神者の方であった。

「……大体ねぇ、清光が私のことを愛してるなんて、今更わーわー言わなくったってよおく知ってるわよ。人の世界ではね、そういう気持ちを他人のそれと比較するのって格好悪い事なのよ。私、清光のそんな格好悪い所は見たくないな」
「わかんないよぉ。俺、刀だもん。俺、今度こそ何があっても、誰も居なくなっても、あんたの傍に居る最後の一振りになりたいんだもん」

審神者は頭を抱えて、再び大きなため息をついた。
見た目のせいで普段は意識しないが、刀剣男士達は人の体を得てから精々4年かそこらなのだ。特にこの初期刀の駄々っ子振りは4歳児とあまり変わらない。

「……まったくもう……しょうがないなぁ」
「だから、だからさ、また誰かの修業を見送るときには、俺はまたああ言うよ。言わずにはいられないんだ」
「じゃあ、言う度にハリセンでツッコんでやる」
「……顔はやめてよね」
「…………後頭部辺りで手を打ってやるわ」
「わーったよ……っっ」

えぐえぐと泣き出した清光の肩を抱きながら、審神者は天井を仰いで考えた。
後で安定からも話を聞いて、心配をかけた詫びと、礼を言わなくては。あと、ハリセンって万屋で買えるのだろうか――。