暗夜

 

by 眠林

 
 
降るような星空の下、膝を抱えていたリナは突然不機嫌そうに空を睨み付た。
「何よっっ!!。話があるなら、とっとと出てらっしゃいよっ!。ゼロスっ!!!。」
ふわり、と、彼女の目前の星空を隠して、黒い影が舞い下りる。
「いやー、こんな所でお休みにもならずに、どーなさったのかなーーと。」
「よけーなおせわよっっ!!。」
「今夜はご機嫌が悪いですねぇ。ガウリイさんと喧嘩でもしたんですか??。」
「知ってんなら聞かないでよっっ!!!。」
更に機嫌を損ねて、リナは手近にあった石を投げ付ける。ゼロスは顔の前で難なくそれを受け止める。
「やれやれ。『交渉』が出来そうな御気分じゃなさそうですねぇ。今のリナさんは。」
「交渉??。」
リナが訝しげに顔を上げる。その視線を捕らえて、ゼロスの目が『魔族』のそれになる。
「今日はスカウトに来たんですよ・・・・。あなたを。」
「あたしを・・・??。何故・・・・。」
「説明する必要がお有りですか??。・・・リナ=インバース。」
リナの全身が緊張する。先程とは違った意味で険しさを増した表情で、彼女は目の前の魔族を見つめた。
「・・・そんな事、あたしがOKするとでも思ってきたの??。」
「ただで、とは言いませんよ。だから『交渉』って・・・。」
ゼロスはリナの顔を覗き込む。思わず身構えながら、それでも、リナは問うた。
「・・・なら・・・、どんな条件を出すつもりよ・・・。」
「あなたの一番望むものを。」
「あたしが望むもの??。」
ゼロスは、恐ろしいほど優しげに、にっこりと微笑んだ。
「・・・ガウリイさんを、永久に、あなたの側に。」
「・・・・・・・・・・!!!!!!。」
リナの大きく見開かれた瞳が、一瞬、揺れる。
内心の動揺を隠して、リナは言った。
「・・・魔族の出す条件としては変じゃないの。世界を滅亡させようとするものが『永久に』って・・・??。」
ゼロスは、ひるまない。
「なまじ、限りある命、別々の体だから、いつか別れてしまうかもしれない、と、心配になるんでしょう。ならば“混沌の海の中での永久”を、彼と共有する方が、あなたの『望み』に近くありませんか??。」
・・・いつもなら簡単に打破できるはずの精神攻撃だ・・・。でも今は・・・!!!。
大体あたしがこんな気持ちになるのも、みんなあいつのせいよっっ!!。あのクラゲ・・・!!!。
リナの『葛藤』を味わうかのように、ゼロスは満足気にうなずいた。
「リナさんさえその気になって下されば、僕は協力を惜しみませんよ。『滅びの日』まで、ガウリイさんを、あなたから離れられなくしておくのは・・・」
ゼロスは笑う。凶凶しく。
「・・・簡単な事です。」
・・・・・・リナの中で、何かが音を立ててはじけた。目を閉じ、大きく息をしてから、彼女はゼロスを見据える。
「ならば・・・、答えを言うわ。」
ゼロスは静かに肯いた。リナは右手を彼に差し伸べ・・・・・・・・振り上げると力を込めて二旋させる!!。
パシッ、パシッ!!・・・・。
両頬を張られたゼロスよりも唇をかみ締めて、リナはあとずさる。両眼に本当の『怒り』をみなぎらせて。
「あんたは人間じゃないから・・・魔族だから・・・、この程度で許してあげるのよ。いいわね!!!。」
リナの栗色の髪が、紅蓮の炎のようにザワリと揺れた。
「1発はこのあたしを甘く見た分、もう1発はガウリイを侮辱したぶんよ!!!。万が一にも、ほんとにそんな事をしたら・・・。」
「・・・したら??。」
交渉に失敗したはずのゼロスは、しかし、笑んでいる。それほど、彼女の『怒り』は美味だ。
そして、リナは目の前の魔族に言い放つ。
「あんたと言えど滅ぼしてやるわ。必ず。」