払暁

 

by 眠林

 
 
黎明の森の中で、剣を正眼に構えたまま微動だにしなかったガウリイが、静かに口を開く。
「・・・ゼロスだろ??。何か用か??。」
彼の背後に、夜の名残の闇が蟠り、1人の男になる。
「こんな時間にお一人で鍛練なんて、珍しいですね。」
「いや、昨日あいつを怒らせちまってさ・・・・・で、何となく。」
ガウリイは張り詰めていた『気』を解いて、剣を収めふり返った。
「・・・で、オレに何の用だ??。」
ゼロスは、リナに向けたものと同じ笑顔で笑いかける。
「実は・・・・、昨夜リナさんにこっちについて頂けるよう『交渉』してみたんですけど・・・。」
「どうだった??。」
「・・・僕も怒らせちゃいました。」
ガウリイは苦笑する。
「・・・・・・そんな所だろうな。あいつの事だから。」
「よく、お分かりになりますね。リナさんの事は。」
「そりゃ、オレはあいつの保護者だからな。」
ゼロスの微笑に、わずかに毒が混じる。
「いつまで・・・・・・『保護者』でいるおつもりですか??。ガウリイさん。」
ガウリイの呼吸が一瞬止まる・・・が・・・彼は深く息を吐き、極めて静かな表情で問いに答えた。
「いつまでなのかはオレにも分からん。あいつ次第さ。」
「・・・迂遠な事ですね。」
「仕方ないさ。」
ガウリイは軽くかわす。しかしゼロスは更に問う。昨日と同じ事を、ガウリイに。
「・・・・・・もし、僕が『協力してくれれば、明日にでもリナさんの全てをあなたのものにして差し上げましょう。』と、言ったら・・・・・・、どうなさいます??。」
ガウリイは少しだけ笑い、そして、空を仰いでつぶやいた。
「どうもしないさ。オレが欲しいのはそんなあいつじゃないんだ・・・。」
・・・ゼロスの微笑の上を、一瞬だけ、違う表情が閃いていった。
「・・・・・・・・・・・・・・実は、昨夜リナさんにも同じ事を言いまして。」
「同じ事??。」
「こっち側に付いてくれたら、ガウリイさんをずっと側に付けて差し上げると・・・。」
「で、どうだった??。」
「往復で2回、ひっぱたかれました。」
ガウリイは答えない。彼が、安堵したのか落胆したのかは、ゼロスにも分からなかった。
「ガウリイさんは、僕をひっぱたかないんですか??。」
「お前さんは魔族だからな。考え方が違うのは当たり前さ。」
至極、当然のようにガウリイは言う。ゼロスは、わずかに不満を覚える。
「じゃあ、僕が本当に『そんな事』をしたら・・・?。どうなさいます??。」
「お前さんの力で、リナをオレにあてがったら・・・か??。」
初めて、ガウリイの意識が複雑に『負の感情』を纏うのを、ゼロスは感じた。
期待を持って待つ彼に、しかしガウリイは、いつもと全く変わらない表情で・・・・・・・・・・・・・・・・・笑いかけた。
「全然思い付かないな。オレは憶測で物を考えるのは苦手なんでね。」