夜の情景 ― 星月夜

 

by 眠林

 
 
茜に染まっていた山の端も群青に沈みはじめる頃に、風が渡る丘の上に男は戻って来た。
旅姿の手には、白い花と酒の壜が1つ。
いつもの場所に腰を下ろすと、彼は語りかけた。
「すまなかったな、ずっと来れなくて…。今回はちょっと遠出して来ちまったんだ…」
目の前の白い石は何も答えない。しかし、彼はいとおしそうにそれを撫でながら微笑んだ。
「実はすごい知らせがあるんだ。あいつら、やっと結婚するそうだ。
それも、何でだか知らないがセイルーンのお姫さんと知り合いで、あの白魔術都市の王宮で式を挙げるんだぜ。信じられねーよなぁ」
話しながら、彼は持って来た2つの盃に酒をそそぎ、1つを墓石の前に、もう1つを自分の手にとった。
そして、懐から一通の手紙を取り出すと、式の日付が今日になっているのを確認して、ため息をつく。
「あいつらには世話になったしなぁ。行ってやるのが筋なんだろうけれど…、俺はどうしても、君と一緒に祝ってやりたかったんだ。
…だから、行けない」
彼が、持っていた花束を墓に供えると、花茎の長い白い花は、まるで花嫁のブーケのように枝垂れて墓石を飾った。
風が、そのまわりに、花びらをやわらかくまきちらす。
花に埋もれた“彼女”に向かって、彼は、静かに愛しげにささやいた。
「だから、今夜は朝まで、俺につきあってくれないか?。いいだろう?………ミリーナ」
男は、目の前のグラスと自分のそれを触れ合わせると、ゆっくりと飲みほした。

またたく星と、そよぐ風の中で、彼らはいつまでも語り合っていた………。